賃金の支払の確保等に関する法律

第1章 総則

(目的)

第1条 この法律は、景気の変動、産業構造の変化その他の事情により企業経営が安定を欠くに至つた場合及び労働者が事業を退職する場合における賃金の支払等の適正化を図るため、貯蓄金の保全措置及び事業活動に著しい支障を生じたことにより賃金の支払を受けることが困難となつた労働者に対する保護措置その他賃金の支払の確保に関する措置を講じ、もつて労働者の生活の安定に資することを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「賃金」とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)第11条に規定する賃金をいう。

2 この法律において「労働者」とは、労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。

 

第2章 貯蓄金及び賃金に係る保全措置等

(貯蓄金の保全措置)

第3条 事業主(国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入れであるときは、厚生労働省令で定める場合を除き、毎年3月31日における受入預金額(当該事業主が受け入れている預金の額をいう。以下この条において同じ。)について、同日後1年間を通ずる貯蓄金の保全措置(労働者ごとの同日における受入預金額につき、その払戻しに係る債務を銀行その他の金融機関において保証することを約する契約の締結その他の当該受入預金額の払戻しの確保に関する措置で、厚生労働省令で定めるものをいう。)を講じなければならない。

(貯蓄金の保全措置に係る命令)

第4条 労働基準監督署長は、前条の規定に違反して事業主が貯蓄金の保全措置を講じていないときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業主に対して、期限を指定して、その是正を命ずることができる。

(退職手当の保全措置)

第5条 事業主(中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)第2条第3項に規定する退職金共済契約を締結した事業主その他の厚生労働省令で定める事業主を除く。)は、労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるものにおいて労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、当該退職手当の支払に充てるべき額として厚生労働省令で定める額について、第3条の厚生労働省令で定める措置に準ずる措置を講ずるようで努めなければならない。

(退職労働者の賃金に係る遅延利息)

第6条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。

2 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。

  

第3章 未払賃金の立替払事業

(未払賃金の立替払)

第7条 政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第8条の規定の適用を受ける事業にあつては、同条の規定の適用がないものとした場合における事業をいう。以下この条において同じ。)の事業主(厚生労働省令で定める期間以上の期間にわたつて当該事業を行つていたものに限る。)が破産の宣告を受け、その他政令で定める事由に該当することとなつた場合において、当該事業に従事する労働者(船員保険法(昭和14年法律第73号)第17条の規定による被保険者である労働者を除く。)で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金(支払期日の経過後まだ支払われていない賃金をいう。以下この条及び次条において同じ。)があるときは、民法(明治29年法律第89号)第474条第1項ただし書及び第2項の規定にかかわらず、当該労働者(厚生労働省令で定める者にあつては、厚生労働省令で定めるところにより、未払賃金の額その他の事項について労働基準監督署長の確認を受けた者に限るこ)の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わつて弁済するものとする。

(返還等)

第8条 偽りその他不正の行為により前条の規定による未払賃金に係る債務の弁済を受けた者がある場合には、政府は、その者に対し、弁済を受けた金額の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、当該偽りその他不正の行為により弁済を受けた金額に相当する額以下の金額を納付することを命することができる。

2 前項の場合において、事業主が偽りの報告又は証明をしたため当該未払賃金に係る債預が弁済されたものであるときは、政府は、その事業主に対し、当該未払賃金に係る債務の弁済を受けた者と連帯して、同項の規定による返還又は納付を命ぜられた金額の納付を命ずることができる。

3 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第26条及び第41条の規定は、前2項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額について準用する。

4 政府は、第1項又は第2項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額の返還又は納付に係る事務の実施に関して必要な限度において、厚生労働省令で定めるところにより、第1項の規定に該当する者(同項の規定に該当すると認められる者を含む。)又は事業主に対し、未払賃金の額、賃金の支払状況その他の事項についての報告又は文書の提出を命ずることができる。

(労働者災害補償保険法との関係)

第9条 この章に規定する事業は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第29条第1項第4号に掲げる事業として行う。

 

第4章 雑  則

(労働基準監督署長及び労働基準監督官)

第10条 労働基準監督署長及び労働基準監督官は、厚生労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる

 

第11条 労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の規定による司法警察員の職務を行う。

(報告等)

第12条 都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官は、別に定めるものを除くほか、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業主、労働者その他の関係者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

(立入検査)

第13条 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、又は帳簿、書類その他の物件を検査することができる。

2 労働基準監督署長は、第7条の確認をするため必要があると認めるときは、その職員に同条の事業主の事業場に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件の検査をさせることがてきる。

3 前2項の場合において、労働基準監督官及び前項の職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。

4 第1項及び第2項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(労働者の申告)

第14条 労働者は、事業主にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。

2 事業主は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(厚生労働省令への委任)

第15条 この法律に定めるもののほか、第7条の請求の手続その他この法律の施行に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。

(船員に関する特例)

第16条 船員法(昭和22年法律第100号)の適用を受ける船員に関しては、この法律に規定する都道府県労働局長若しくは労働基準監督署長又は労働基準監督官の権限に属する事項は、地方運輸局長(海運監理部長を含む。)又は船員労務官が行うものとし、この法律(第7条、第8条第4項及び前条の規定を除く。)中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省」と、第7条中「労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第8条の規定の適用を受ける事業にあつては、同条の規定の適用がないものとした場合における事業をいう。以下この条において同じ。)」とあるのは「船員保険法(昭和14年法律第73号)第17条の規定による被保険者(同法第15条第1項に規定する組合員たる被保険者を除く。)を使用する事業」と、「被保険者である労働者を除く」とあるのは「被保険者(同法第15条第1項に規定する組合員たる被保険者を除く。)で、ある労働者に限る」と、「厚生労働省令で定める者」とあるのは「厚生労働省令・国土交通省令で定める者」と、「厚生労働省令で定めるところにより」とあるのは「厚生労働省令・国土交通省令で定めるところにより」と、第9条の見出し中「労働者災害補償保険法」とあるのは「船員保険法」と、同条中「労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第29条第1項第4号に掲げる事業」とあるのは「船員保険法第57条ノ2第3項に規定する事業」と、前条中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令(前章に規定する事項については、厚生労働省令)」とする。

 

第5章 罰  則

 

第17条 事業主が第14条第2項の規定に違反したときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 

第18条 事業主が第4条の規定による命令に違反したときは、30万円以下の罰金に処する。

 

第19条 次の各号のいずれかに該当する者は、10万円以下の罰金に処する。
@ 第8条第4項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は文書を提出せず、若しくは虚偽の記載をした文書を提出した者
A 第12条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
B第13条第1項又は第2項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者

 

第20条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第17条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。