平成13年5月
会員作品
五月例会
三瓶俳句会
「照子選」
蛙鳴く夕餉の支度リズムよし
三好正子
春陰の岬に立てる観世音
宮本しづ子
白足袋の床に貼りつき能を舞う
富吉秋窓
満開のつつじの風を裏戸より
三好雪
洟垂れの子供今見ず子供の日
菊地芳子
何しても夢がいっぱい新入児
木村真由美
耳を掻く太き耳垢暮れの春
竹崎恵美
葉桜の阿吽に揺れる宮居跡
上甲照子
川岸の落花に波のたたみくる
山本ノリ子
葱坊主むくむくたちて反抗期
浅川光春
連休を降つてしまへり菜種梅雨
宇都宮石帆
酔ひたれば花の色まで濃かりけり
井上明子
誘われて春風と行く磯遊び
井上定男
行きずりの軽き会釈や藤の雨
西村さつき
ふる雨やかすみて匂ふ藤の花
稲垣千代子
鯉のぼり一湾の風集めたる
山本マツコ
車椅子押す手にふれし絲柳
松田真佐恵
葉桜やベンチに老いの夢語り
二宮武夫
岬鼻海ふくらむや桜鯛
井上雅代
春の陽を全身に浴びて岡歩き
宇都宮政子
五月晴れ一つの事をなしとげる
宇都宮美直子
野の道の蓬摘む妻待ちてをり
井上修
みどり児の瞳にうつる鯉のぼり
山本志津
ゆっくりと妊婦の過ぎる春日傘
河野ミツエ
静なる藤房伝ふ銀の雨
清家幸子
つばくろや烈風に打つ白き腹
宇都宮喜代
結納の思い出綴る鉄線花
大塚チヤ子
小粉団に風の子じっとして居れぬ
菊地妙
寺山の盛り上がりたる椎の花
久保田ケイ子
赤んぼの愛想笑ひて初節句
三好千栄子
頭から目刺を食ふて戦前派
宇都宮伝
大凧に大空へ身を引かれけり
宮本ミユキ
手話の手の二人の会話風光る
那須陽子
嫁ぐ娘と共に一夜を春の宿
浅川道子
数珠を揉むごとく新茶揉む女
神童
五月席題
互選成績表
(春・亀鳴く)
九点
われ死なばさるる家亀鳴けり
伝
六点
太陽を大きく描いて吾子の春
ミツエ
五点
亀鳴くと聞き耳たてておろかなる
ミユキ
亀鳴くや祖国を踏めぬえひめ丸
道好
四点
隣席の寝息たてをる春講話
伝
生き甲斐の証の一句亀鳴けり
芳子
三点
浦島のいまも生きをり亀の鳴く
さつき
幟立つばかりの春の祭りかな
石帆
咲くものに散る儚さを春嵐
雪
二点
すれ違ふ仙の背中や亀の鳴く
ミユキ
春なれや荒磯に錆びし忘れ鎌
ミユキ
春が来る顔出して寝るまだ寝てる
恵美
一点
産卵の目尻の涙亀が鳴く
ミツエ
風も陽も水音も春を奏でをり
雪
老農に作業衣赤シャツ山笑ふ
ケイ子
おだやかに闇の物音亀の鳴く
光春
春の夜やみどり色の京の菓子
真津子
せせらぎの音やわらかに春立てり
真津子
亀鳴くも難聴の身に返事なし
武夫
春うらら猫のんびりと大あくび
ノリ子
五月句会評
「井上修選」
白足袋の
床に貼りつき
能を舞う(ふ)
能という優雅な芸能です。「床に貼りつき」がきいています。
人は皆
しょせんは一人
花は葉に
作者の人生観でしょうか。しょせんは一人がよいです。
たんぽぽの
絮を吹きあう「ふ」園児かな
素直な表現の中にほのぼのとした温かさがあります。
極細の
ペンを愛する
春の宵
心情がよく分かります。春の宵は感傷的なものです。
行きずりの
軽き会釈や
藤の雨
出会う人に接するときのエチケットの会釈でしょうか。
鯉のぼり
一湾の風
集めたる
リアス式の奥地湾の風を呑み込んだ鯉幟の意気です。
ジョキングの
ポニーテールや
風薫る
若い娘さんの姿でしょうか。走る姿のとらえ方がよいです。
花蜜柑
町の真ん中
まで匂ふ
三瓶の町のこの季節の風物詩です。
気になった句
「神童選」
☆迷いなど夜桜宴中に捨て
俳句と川柳の境が次第になくなっています。
(捨て)と適用形で終わると川柳に近いものがありますけど
私個人としては自由俳句を目指しておりますので(次の時代を担うものとしては)
今の俳句はもう通じない事を分かってほしいです。
☆死ぬことは大仕事なり春は逝く
☆やがてなき身とも思わず植林す
☆花衣脱いでしみじみ一人かな
三句ともそうですが、三瓶俳句会の方は高齢者が多いので、やや暗い句が多いと思っております。明るく前向きな句を作って下さい。